録音した声を聞いて
『自分の声が嫌い。』
『自分の声が気持ち悪い。』
『自分の声がキモ過ぎる。』
と自分の声に違和感を感じたり、コンプレックスと夢の間に板挟みになって悩んでいる人は大勢います。
声優に限らず、「消防士や自衛隊のような正義の仕事につきたいけど身長が低くて受験することができない」や「パティシエになりたいけど手の平の温度が高くてチョコレートのお菓子との相性が悪い」など似たような悩みは数多いものです。
確かに身体的な事は余程の技術でもない限り、変える事はできません。
特に声は、声帯・顔の骨や空洞など体全体を響かせて声音となります。声紋は指紋のように裁判の証拠としても採用されるほど、一人一人異なるものです。練習して聞こえやすい声になったとしても、本質的には変えられず、天からさづかった声音は変えられません。
声優になりたいなら、冷静になって「自分のコンプレックスを活かす手段はないだろうか」と考えてほしいです。
自分のコンプレックスを強味に
その人の名は大山のぶ代さん、日本を代表する声優であり女優でありタレントです。私たちも尊敬する大山のぶ代さんは国民的漫画およびアニメ「ドラえもん」で26年間もドラえもんの役をつとめてきた声優だという事は広く知られていますが、当初は自分の声に対して思い悩んでいたエピソードがあります。
ドラえもんの特徴的な伸びやかな声はほぼ地声ですが、幼い頃に人前で声を発したところ、周囲の人々は大山のぶ代さんの地声を受け入れる事はありませんでした。その事で大山のぶ代さんは深いショックを受け、長い間コンプレックスになったそうです。
しかしアニメ「ドラえもん」が始まる事になり、キャストとして選ばれた大山のび代さんは原作者の藤子・F・不二雄さんに初めて対面した際に「声はどうでしたか」と尋ねたところ、藤子・F・不二雄さんは「ドラえもんはああいう声だったんですね」とあっさり受け入れてくれました。この事がきっかけとなり、大山のぶ代さんは地声に対するコンプレックスを解消し、アドリブで次回予告をしたり台詞を喋ったりするほど積極的になったそうです。
このエピソードは小学校の道徳の資料として取り上げられるほど有名ですが、それでも「自分の声が嫌いだから変えたい」と望んでいる人がいるかもしれません。
確かに自分が嫌だと感じているものを変えたいと望み、その努力をしているなら素晴らしい事だと言えます。しかし自分の物を捨てて他の物を取り込んだところで、手にしたものは演技をする仕事をするうえでは致命的なものである可能性があります。
平日に文化放送を通して日本国内に放送されているラジオ「武田鉄矢・今朝の三枚おろし」で出演している俳優の武田鉄矢さんは「整形手術をした人の顔は不自然だ」と述べていました。武田鉄矢さん曰く、「本来の顔とは別の顔になる整形手術をした人の顔はいわば仮面です。つまり筋肉が自然に動かないため、演技が不自然になるように見えます」と語っていますが、これは声にも当てはまります。もしも整形手術のように好きなように声帯を変える手術があったとしても、不自然になるだけです。
声優は俳優や女優の演技力よりも強くなければなりません。
それは自身ではなく、キャラクターの表情と口の動きに合わせて声を発しなければならないからです。そのため声優は俳優や女優になるよりも難しいといわれています。そのなかで個性的な声というものは一種の武器です。夢を叶えるためにコンプレックスを武器にする方法は悪くないはずです。それに他の人から見れば、自分が深く悩んでいるコンプレックスは大したものではないかもしれません。
あなたも生まれ持ったこの世で一つしかない自分の声音を信じてくださいね。