アフレコというのは、映像を先に作って音声を後からそこにあわせて録音するレコーディング方法のことです。日本のアニメ業界などはこの手法が主流で録音しています。出来上がったアニメーションを見ながら録音することができればそれが一番なのですが、やはり膨大な量の作画をおこなわなくてはならないのがアニメーション作成の常なので、レコーディングの期日に動画が出来上がっていないこともよくあります。
そのような場合は、背景が入っていない状態の動画で録音したり、場合によっては絵コンテだけを見ながら録音するようなこともあります。
また、レコーディングする上で大変なのが、声優のスケジューリングです。人気声優になればなるほどスケジュールの確保が難しくなってしまいます。一日だけ時間を確保し、そこで全ての撮影をしてしまうようなこともあるそうです。
スタジオは予約制ですし、レコーディングが遅れれば遅れるほどそこで費用は発生します。そのような場合のスケジュールが調整できない際に使用されるのが、「抜き録り(オンリー録り)」と言われる方法です。
抜き録りとは、キャラクターや登場人物の台詞を個別に抜き出して、別々に録音する方法です。レコーディングに参加することができなかった声優の出演部分を、個別にレコーディングすることができれば、予定を遅らせずに製作をすすめることができます。この方法を用いることによって、多忙な人気声優や俳優などのキャスティングも可能になったそうです。とある声優の方は、あまりにも人気のためひとつのアニメシリーズ全話をほとんど抜き録りでレコーディングを行い、そのためシリーズが終わった後の打ち上げや座談会で、キャスト同士の話についていけなかった、なんていう話もあります。
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声優だって人の子なんです
アニメシリーズを見ていて、急にキャラクターの声が変わったりすることがあると思います。長寿アニメになると、キャストの世代交代なのもありますが、どこかの話だけ声が違った、なんてことはあまりありません。
声優という仕事は休むことはなかなかできない仕事です。代役が効かない仕事ですし、だからこそ声優の方々はプロ意識を持って仕事にのぞんでいます。でも声優だって人の子なので体調を崩すことはあります。それがちょっとした風邪程度であれば問題はありません。多少の声の嗄れなどはセリフを考慮しながら強行します。
ただ、主役だったり、その回のセリフが多かったりすると、声が完全に嗄れてしまう前に重要なセリフを抜き録りするのです。それすら無理なほど完全に声が出なくなっているような状態であれば、次の週の録音の際に抜き録りします。
アニメシリーズなどの場合だと、基本的に毎週録音が行われています。録音するためのスタジオを毎週確保しているわけです。もちろんレコーディングした次の週にすぐ放映されるわけではないので、声優が不在だったとしても次の週に抜き録りでレコーディングが出来れば編集することができるのです。
ちなみに代役が効かないような人気声優が長期休業を余儀なくされる場合は、作品の内容自体を変更し、出演しなくてもいいようにすることもあるそうです。
抜き録りの活用方法
アニメによっては一人の声優が二役、三役と、いくつもの役をこなしている作品があることをご存じでしょうか。声優によっては全く違う声を出して違うキャラクターを演じ分ける方もいらっしゃいますが、同じ作品の中で違うキャラクターを演じていると、そのキャラクター同士のかけあいのレコーディングが難しくなります。
喧嘩をしているシーンのような、声が重なるような掛け合いの場面を演じることが不可能だからです。そのような場合に活用されるのが抜き録りです。
別々にキャラクターの声をレコーディングして、後から編集することで、活発な丁々発止を演出することができます。
抜き録りのデメリット
抜き録りという技術が広まるまでは、レコーディングは声優がスタジオに集まって行っていました。今では声優が別々に抜き録りを行うことで、わざわざ集まる必要はなくなってしまいましたが、「演じる」という部分を考えると、この技術にも賛否両論あるようです。声優はマイクの前に立って台本を読みながらただ声を発しているわけではありません。表情や動作で演技ができない分、声優は声に自分のすべての演技力を乗せなくてはならないのです。
マイクの前に立ち、そのシーンの動作を実際に演じながらレコーディングをしたり、声優同士で実際に向き合ってセリフのかけあいを行うことも演技に色や艶を持たせてくれます。
しかし、マイクの前で一人で演技をしていると、会話のシーンの演じ方も若干変わってきます。喧嘩のシーンや愛の語らいのシーンではその変化が特に如実なのではないでしょうか。
抜き録りという技術の発達により、スケジュール管理が効率的に行えるようになったのは事実です。効率的なスケジューリングを優先するか、演技の質を優先するか、優先順位を考えていく必要があります。
抜き録りをするために
日常生活の中で誰かと会話をするとき、言葉と言葉の間(ま)の部分を大切にしたりします。返事をするタイミングだったり、言葉を肯定するタイミング、否定するタイミングなど、さまざまな間(ま)があります。
抜き録りでこの間(ま)を表現するには修行が必要です。実際に放送されているアニメを見たり、抜き録りの授業で実習してみたり、とにかく経験を積んでいきましょう。