声優を目指す人、また現役で声優として活躍している人たちが実践しているボイストレーニング、その素地となる体と顔のトレーニングについて考えてみましょう。その多くは日常の中でできることを繰り返しコツコツと行い、維持していくことが多いものです。

目次

顔のトレーニング

まず表情筋のトレーニングです。顔の表情を作るというよりは、顔を楽器のパーツの一つとして、より良い声が出せるように筋肉を鍛えていくというものをご紹介しましょう。普通の日常会話ではある一定の筋肉しか使われていません。頬の筋肉も薄くて硬く、ほっぺたを膨らめて息を溜めてみてもそれほどの量は入らないものです。プロの声優はその部分がまるで餌をため込んだリスの頬袋のように柔らかく膨らみます。

ではどうしたら顔の筋肉を育て、鍛えることができるでしょうか。

まず、顎をよく使うことです。食事を摂るときに丁寧に噛み、咀嚼回数を増やしましょう。そこでお薦めなのが玄米やフランスパンのバゲットなど、噛みごたえのある食材を日常の食事に摂り入れる、というものです。同様に、あたりめを買い置きしておいて、口が寂しくなったら噛むというのもおすすめです。

以前は割り箸を横にして口に銜えておく、ということも推奨されましたが、これは転倒などの際に事故の危険がありますので今はあまりお勧めできません。日常生活で必ず食べるものをしっかり噛むことで顎の周りの内側の筋肉から鍛えられ、頬周りまでが厚みをもって柔らかく変化してきます。

また、顎が良く動くようになると顎関節の開きも良くなり、大きく動かせるようになってきます。

顎関節、頬の次は舌をよく動かしましょう。舌の位置によって、口腔内の空間の容量が変わり、出せる声の質、発声の音量に大きく影響するのです。舌を唇の左右の端の先へと力を入れて伸ばしたり、伸ばした舌を時計回り・反時計回りにぐるりと数回回したりするのです。

これは例えば洗面所の鏡の前で誰もいない場合やトイレの中などで実践しやすいトレーニングです。本を読みながらでも、台所で洗い物をしながらでも行えます。ベースになる表情筋や内側を鍛えたら、表面の筋肉も動かしてみましょう。目を閉じて、唇を尖らせるようにして顔の中央にぎゅーっと力を集めるようにしたり、目と口を思い切り開いて筋肉を伸ばしてみたり、そのまま顎を左右に動かしてみる。

そんな顔のストレッチも、回数をかけて実践してみましょう。

これらのことを繰り返すことによって、顔中の筋肉がふっくらと柔軟性をもって、「楽器」としての機能を備えるようになってきます。

体のトレーニング

では、その楽器からより良い声を引き出すためには良い姿勢と深い呼吸が求められます。全身を映す鏡があったら、その度に自分の立ち姿をチェックしてみましょう。

背中が丸まっていませんか?

肩が前に内側に入り込んでいませんか?

背筋を伸ばしてお腹を伸ばし、胸を開いて肺にたっぷりと息を吸い込めるような姿勢を作るように意識をしていきましょう。一般的に肺活量と言われるものですが、一度の呼吸でいかに肺にたくさんの空気・酸素を取り込めるか、というのは、より大きく深い声を出せるか、ということに直結します。

浅い呼吸では人の耳に残るような、とまるような声は出せません。

腹筋と背筋のバランスをとるように、背骨を中心としてニュートラルな姿勢を保ちつつ、腹式呼吸・胸式呼吸に必要な筋肉を鍛えるトレーニングが求められていきます。ヨガやピラティスなどといったメソッドから自分がやりやすいものを取り入れていくのもよいでしょう。

スポーツジムに通って本格的なものを習う人も少なくありません。また、自宅での生活の中でバランスボールなどを取り入れて体の重心を観察しながら体の内側の筋肉を整えるコアトレーニングをしてみるのも効果的かつ継続しやすいことです。食卓の椅子をバランスボールに取り替えて生活すれば、そこに座ること自体がトレーニングにもなります。

プロとして活躍している声優さん・俳優さんが自分を律して鍛えていく時にはよく実践されている方法のひとつなのです。しかし、「このトレーニングをすればすぐに臨む技術が身に着けられる」というような魔法のメソッドはありません

まとめ

前述したような、小さな顔の筋肉から大きな全身の筋肉までをまんべんなくコツコツと鍛えていても「声優として使える体」になるまでには短くても3年、そして10年経っても満足できるものではない、とおっしゃるプロの方もいらっしゃいます。

ボイストレーニングは、ただ「今出せる声」を出すということではなく、そのベースになる体を楽器として鍛えていくことが最も大切であり、また、それが最良の「近道」なのです。

フィジカル・メンタルともに、演技力で勝負するなどという以前に、求められる声を的確に出せるような体制を整えるために日々たゆまぬ努力を続ける、そんな精神的な強さを養うこともボイストレーニングに必要なことなのかもしれません。